私の仕事は、55歳を超えたITエンジニアにプロジェクト案件を紹介していく仕事だ。この間いろいろなシニアの方とお会いすると、個々の方の案件の選択基準というのがかなり違っていることに気づかされる。
シニアのITエンジニアを対象とはしていても、世代ひとくくりではとらえられない。
50代、60代、前半、後半とそれぞれの年代によっても分けられるし、今までの働き方をしてきたかにもよる。
個々人が今まで積み上げてきたもの、背負っているもの、働く必要性やモチベーションにもかかわる。
案件が決まるためにはこうした働く側の選択基準に案件の要求事項と合って初めて可となる。
シニアなんだから、「自由に!」と行ければかっこがいいが、歳をとれば逆に背負うもの、
守りたいものも増えてくる。
社会状況もシニアにウエルカムかというと? 現実はそれほどきれいにはいかない。
だからこそ、仕事を決めていく選択基準とそのプライオリティが重要になってくる。
選択の基準はだいたい下記5点ぐらいだろう。
1.職種、経験、スキル:自分がもっている、言語、基盤(オープン、汎用機)、経験してきた業務・業態
2.案件の決まる早さ:一日も早く。家庭からのプレッシャーも半端ない。
3.単金:やっぱり多くはもらいたい。
4.場所:1時間半もかけてプロジェクトに参加できる人は少ない。
5.働き方:労働時間だったり、フルではなく週4日まで等々
私は、案件をご紹介する側として案件の選択肢が多くなるようアドバイスをするが、難しい人がいる。
例えば単金。やはり昔もらっていた高い給与レベルに固執される方もいる。
単金で案件を選択するので、本人の現状のスキル・経験では難しいところに何回も面談トライ
していくこととなる。
(経験も積んでいるので、年齢かさむほど高く売れると考えている方もいらっしゃる。
でも、残念なことに、単金が高いのは40代と特殊スキルに秀でている方だ。)
こうした選択は、いいとか、悪いとかではなく、私自身はその方の選択だと考えている。
私もなるべく本人の希望に近い形にはしようとはするが、最終的にはご本人がどこまで就労していく
マーケット状況に合わせられるかということに行きついてしまう。
それでは、何を基準に考えるべきなのか。案件を紹介しながら感じるのは、
その方がなるべく長く同じプロジェクトや派遣した会社で働くことが非常に重要ということだ。
それは、転職・転社ではなく、契約社員としてそれぞれのプロジェクトに派遣されるという雇用形態によるところが大きい。
大抵の雇用契約は初回は3ヶ月だ。プロジェクトに参加したものの、パフォーマンスが出せなければ3ヶ月で
(もっと短いこともある)契約解除となる。
職歴表上に3ヶ月案件が続いてしまうとプロジェクトでパーフォーマンスが出せなかったと判断されて、
評価を落としてしまう。そのため次のプロジェクトへの参加ハードルがさらに高くなる。
IT業界は人材不足とは言え、中高齢者ITエンジニアウエルカムかというとまだまだ?だ。
次の案件までの空き:インターバルが長くなってくる。
だからこそ、少なくとも、6ヶ月以上、それより長くプロジェクトを続けられるよう
プロジェクトの中でよい評価をされることが重要なのだ。
高い単金のプロジェクトを選んでもパフォーマンス出せずに3ヶ月案件探し、3ヶ月参画繰り返したら
稼働率50%となってしまう。いくら単金高いといっても1.5倍も2倍も異なることはない。
シニアのエンジニアとって案件のスイッチングコストはバカにならない。
いかに長く働けるか・・そのためには自分のパフォーマンスがしっかり出せる案件を選択すべきだ。
プロジェクトで評価されれば別のプロジェクトでもということで紹介されることもある。
インターバルなく案件にありつくこともできるのだ。
そのためにはやはり、自分のスキル・経験が最優先だろうし、通勤時間や労働時間かと思う。
転職でもないので、案件ごとに単金は異なるので、当初決めた単金に縛られることもない。
長く継続的働くために自分がパフォーマンスを出せる案件を選択すること。
そのための「選択基準」と「優先度」、「許容度」を持つことこそが必要なのだと感じる。
60歳を超えるシニアのエンジニアをプロジェクトに紹介している仕事をしていると
同じ年齢でもプロジェクトに入れる方と面談で保留となる方がいる。その差はなんだろうか。
私がシニアのエンジニアを紹介しているのは、主に汎用機や、COBOLといったレガシィ系のシステムプロジェクトだ。でも、こうしたレガシィ案件の8割以上は実は年齢40代、50代といった制限がついている。さらに細かく50代前半までとつく場合がある。年齢不問とついていても、50歳代までと決まっている場合もある。
(年齢不問に60歳前半の方を提案して5分で却下されたこともあるし、”この年齢の方は・・・と言われたこともある。)
60歳超えても、プロジェクト先の面談までいけるチャンスは現状ではまだ少ない。だからこそ、面談までいったら、確実にOKもらわないとチャンスは遠のくことになる。
同じ年齢でも面談に通る人もいれば60歳超えてる方でも、面談で受かってプロジェクトに入れる方と保留になってしまう方がいる。もちろん、職歴の差もあるだろう。技術の差もあるかも知れない。でも面談でその人の”技術”を正しく推し量るすべはない。面談で具体的なテストが課されることはない。
プロジェクトによるだろうが、案件で回ってくる内容は、(私個人の感覚として)技術的にかなり詳しい人でないと対応できないような案件は少ないと言える。COBOLの技術の詳しさよりも、プロジェクトで規定されているルールに対応しながら、どれだけの量のアプリを品質よく作れるのかがメインとなる。特殊な技術は重要ではないのだ。普通のエンジニアがほしいのである。
技術要件を満たしてたとしても、面談に受かる60代と受からない60代が実際いる。何が違うのだろうか。
その差とは、私はその人の”人間力”の差ではないかと思う。
仕事はプロジェクト、チームで行われる。チームに一緒に入れたい人にならなければ面談はクリアできないだろう。
例えば、しっかり”仕事をやってくれそう”といった人間的力強さも必要だろうし、若い人とコミュニケーションをとるためのある種楽しさ”ちゃめっけ”、”しゃれっけ”が非常に大事なのだ。
もちろん表面的なことだけではなく、こうしたものを兼ね備えている方が60才を超えてもプロジェクトに参画できる方ではないかと思う。面談相手に”この人大丈夫かな?”と不安を抱かせるようだと難しいのだ。
60歳過ぎても皆さん活躍してほしいので是非とも人間力を上げて臨んで頂きたい。人間力を向上する方法は一杯ある。ググれば大量に出てくる。相手から見て”楽しい人間”になれれば人間力は高いといえるだろう。
エンジニアのマーケットに年齢という壁が現状存在しているのは事実である。それは不合理な部分もあるが、現状においてすこしでもあるチャンスを有効に生かして、シニアのエンジニアには活躍期間を延ばしていってほしいものである。そのお手伝いをすこしでもできればと思う。
私はミドル・シニア(主に60歳を超える)のエンジニアを人材不足でお困りのシステム会社様に「スキル人材」として準委任もしくは派遣にてご紹介していく事業をしているが、いざ本人のスキル・職歴にマッチした案件を提案をしても「流石にこの年齢は・・・」とか「その年齢はないわ」と断られてしまうことが多い。
年齢不問と記載あっても、60歳以上はちょっと・・という話になる。『年齢不問』とは、一般的には『60歳を超えない人』の意味の様らしい。雇用するならともかく、委任で作業依頼をするのになと首をかしげてしまう。
60歳を超えると本人の職歴表なり、人材見てもらうまでもっていくのに一苦労である。
こうなるのは、仕事を依頼する側には、60歳を超える人に依頼することにリスクを感じているからだ。使う方としては、指示がしにくい、扱いずらい、適応ができない、健康への不安といったような様々なリスクがあると感じている。
もちろんこうしたことは60歳超えると突然発生するわけではないので50代と60代そんなに変わらないのにとも思うが、そこには大きな壁がある(と感じる)。60歳超えて衰えている人に依頼するのは・・ということらしい。
(30代、40代がメインで欲しいというIT業界なので、大きく譲歩して50代までは耐えてOKと言っているのかも知れないが・・)
歳をとると老眼にもなるし、耳も遠くなる、記憶も悪くなってくる。では実際、加齢によって能力はどのくらい衰えていくのか。
これについてはジェロントロジー(加齢学)という学問があり、かなり前から様々な統計情報が出されている。
認知機能、知能、知恵の3つの分野で見てみよう。
(1)認知機能・・25歳から下がっていく・・但し個人差あり
認知機能とは、外部からの情報を取り入れ(入力),加工し,行動(出力)する一連のプロセス理解、判断、論理などの知的機能で、情報処理能力にあたる。システム的に言えば、CPU,ハード、デバイスの能力ということになるだろうか。
図1からわかるように、知覚的速度、推論、認知機能すべてにおいて、25歳から下がっている。PCやスマホが年数がたつにしたがって、遅くなっていくイメージだろうか。年齢的には下がっているが、点の散らばりが大きいのが特徴である。個人差があるということなのだろう
(2)知能・・・・言語能力は60歳ごろにピーク。新しいことへの適応力は、70歳すぎると明確に低下
知能とは、知的な活動能力の総称であり、「目的にあった行動をし,合理的に考え,環境からの働きかけに効果的に対処する能力」と説明される。これをシステム的に当てはめればソフトウエアのレベルということだろうか。知能は、流動性知能と結晶性知能に分けて分析されている。流動性知能とは新しい新しいことの学習や新しい環境に適応するために必要な問題解決能力であり、結晶性知能とは、蓄積した学習や経験を生かす能力と語られる。時に言語能力であったりと言われる。
図2によれば、流動性知能は、40,50歳をピークに60歳ころから下がり始める。但し明確に低下し始める(100を切る)のは、70歳、80歳なってからである。結晶的知能については、60歳ごろにピークを迎え、低下も80ぐらいまでなだらかに落ちていく感じだ。
(3)知恵・・・・ほとんど年齢による衰えなし
知恵とは「人生の実際に考慮しなければならない重大な場面における,熟達化した知識と判断力」と解説されている。
まさに知識が増えてくれば、増えてくる部分だ。システム的に言えばデータベースといったところか。グラフを見ても年齢による落ち込みはほとんどない
3つのグラフを見て、どう感じただろうか。思ったよりは、知能や知恵の衰えは、遅い年齢(70歳、80歳)から低下が始まっている。60代はまだまだ「現役世代」なのである。認知能力を含めて、落ちていく能力も、維持され、さらに成長していく能力もそれぞれ個人差があるということだろう。積み重ねが活きていく知恵や知能はより個人差が大きくなるのかも知れない。今までの経験、環境、考え方(ポジティブ等々)で大きく変わるのである。
記載しなかったが体力についても同じである。これこそ個人差(個体差)が大きく出てくる。全く違う職種であるが、タクシーの運転手の平均年齢は全国で56.7歳。50歳、60歳がメインの職場である。きつい仕事の担い手になっているのも見渡すと50歳、60歳なのだ。
能力についても個人差がある。だからこそ、年齢といった一律のバーではなく、各個人の職歴やスキルや性格等を判断してほしいのである。
参考文献:「知的機能の変化と適応」 東京大学ジェロントロジー研究会
: 知能の複数の下位側面(佐藤眞一(2006)2)より引用
:Baltes, Paul B.; Lindenberger, Ulman;“Emergence of a powerful connection between sensory
and cognitive functions across the adult life span: A new window to the study of cognitive
aging?”,Psychology and Aging,Volume 12, Issue 1, March 1997
:Schaie, K.W., 1980. Intraindividual change in intellectual abilities: normative considerations .
Paper presented at the annual meeting of the Gerontological Society of America
:Baltes, Paul B.; Staudinger, Ursula M.; “Wisdom: A metaheuristic (pragmatic) to orchestrate mind
and virtue toward excellence.”The American psychologist, 2000 Jan
現在、50代、60代のシニアのITエンジニアが自分のスキルを活かして仕事を続けられるように支援をしていく仕事を進めている。今は、受託ソフトウエア開発会社に、50代、60代のエンジニアの人材募集がないか聞いて回るという足でかせいで案件の掘り起こしをしている。
営業で回って感じることは、世の中IT人材不足が言われて久しいが、シニアのITエンジニアにニーズが来ているかというとまだまだ感じはない。
「50代、60代のエンジニアの紹介をしています。」と説明をすると必ず「お客様から40代ぐらいで要員いないかと言われているんだよね」と言われる。こちらはめげずに粘り強くシニア向けの案件を探すのが仕事なのだが・・。
一体ITエンジニアの人材マーケットの中で、シニアがトライできる案件はどのくらいあるのか、ためしに毎日送られてくる案件情報をもとに分析してみた。
年齢制限がない案件は約半分(年齢制限がないとは、50歳までの年齢制限がついてないものを選択。)
でも、年齢制限が付かない案件の6割は、Java、C,C#,VB.Netといった現状の50代、60代が親しくない言語が対象の案件だ。(逆に年齢層が若手に限られるので制限記載がないともいえる。)COBOLはどうかというと年齢制限のつかないものの中で8%程度を占める。(COBOLで言えば半分は年齢制限付き、半分は年齢制限なし)
全体の案件から見れば年齢制限のないCOBOLは4%、テスト等も含めてシニアのスキルを活かせる対象になるのは、全体で8%程度の案件だ。(もちろんこれは言語技術のみで見たもので、案件の要請として業務スキル等付加価値があって初めてマッチしたとして候補となる。)
100件案件あったら、年齢と技術で対象が8件。そこから業務経験・場所等付加条件で候補となるのか選択となる。
現在広告でシニアを顧問ビジネスにと手掛けている会社は多い。流行っている感覚をもつが、一説によると、マッチ率は5%程度だそうだ。
こうしたサイトで、登録して全く連絡がないとこぼすシニアのツイートを見たことがある。
広告見て、「俺もいけるんじゃないか」と思って登録するが、数値的に見れば5%で、大量に登録して、数少ない成約でビジネスのつり合いをとっているビジネスモデルなのだ。(応募するシニアもこうした市場状況を理解しておく必要がある。登録は無料だからいいものだが・・・・)
先ほども述べたように、現状マーケットで回っている案件の比率で、多いのは、Java、C,C#,VB.Netというマーケットだ。あと5年後に出てくる50代のエンジニアでこうした技術をもった人は増えてくるだろう。そうすれば、マッチ率は上がってくるかも知れない。
そのうえで、現在のシニア予備軍が将来的に価値を増やそうと考えているのであれば、デジタル技術(アプリ技術やツール技術)を経験していた方が安定的にスキル活躍の場が見つかるだろう。もちろん、Python,Node.jsやAI系等のツールや経験があれば、もっとエンジニアマーケットに近づくだろう。シニアで働くにしても、どれだけ技術を理解しているかが価値の差になっているのである。
政府は「人生100年時代構想」社会人が最新技術などを再学習する「リカレント教育(学び直し)」の制度整備に本格着手する方針を固めた。いい方向だと思うが、これが単に雇用している企業に補助金のように渡してとなると意味がなくなる。自立するためにお金は使われないからだ。
是非(非正規の若者はもちろんのこと)シニアが再度社会で活躍するための学びなおす機会として検討されればと思う。
さらに、大学との連携もいいだろうが、「飯が食える」実学を学べる場として提供されればと思う。
さらにシニアには、学びスキルは現状では評価対象ではなく、あくまでも「経験のみ」が評価対象になっている。是非リカレント教育での評価も評価対象になっていくように変わっていく必要があるだろう。
足でかせぎながらも、シニアのエンジニアの案件が少しでも増えていくことを望んでやまない。
IT業界の人材不足を起こすもうひとつの要因は、
プログラマ→システムエンジニア、そしてプロジェクトマネージャ
といった直線的なキャリアパスの存在だ。
人材不足をもうすこし職種別に細かくみていこう。
『IT人材白書2017』から、職種別の情報処理・通信に携わる人材数から職種割合を
見てみる。(人材白書上は、IT企業、IT企業以外と分けて記載ですが、合算して記載。)
日本
職種 | 人数 |
システムコンサルタント・設計者 | 552,000人 |
ソフトウエア開発者 | 304,100人 |
米国の状況と比較してみると
米国
職種 | 人数 |
システムコンサルタント・設計者 | 1,070,000人 |
ソフトウエア開発者 | 1,544,900人 |
なんと日本では、ソフトウエア開発を専とする開発者の方が設計者・コンサルより
少ないとは改めて驚いた。
(ちなみにシステムコンサルタント・設計者に集計されている職種は、
システムアナリスト,情報ストラテジスト,システムコンサルタント,
ビジネスストラテジスト,ISアナリスト,システムアーキテクト,
情報処理アーキテクト,ISアーキテクト,情報処理プロジェクトマネージャ。
それ以外がシフトウエア開発者だ。)
もちろん、分類の仕方や範囲によって数字は変わるものであるが、
”ソフトウエア開発を専として従事している”と言える人が少ない
ことは確かな事実なのかも知れない。
現実当社に毎日回ってくる人材募集の内容を見ても、
ほとんどがプログラムスキル保有者だ。
なぜ、ソフトウエア開発者が少ないのか。そのひとつの理由は、ソフトウエア開発者として
従事していくる期間が短いからだ。その期間はスキル的な問題で短くなっているわけでは
なく、構造的にソフトウエア開発を専としてやれる期間を短くせざるをえない状況に
あると言える。
その原因が職種に伴う単金差とそれに”紐づく”直線的なキャリアパスの存在だ。
各職種の平均年齢を米国と比較してみる。
職種別平均年齢
米国
職種 | 平均年齢(中央値) | 備考 |
Computer and information systems managers | 45.5歳 | ボリュームゾーンは、45-54歳 |
Computer systems analysts | 42.4歳 | 〃 25-34 |
Computer programmers | 42.6歳 | 〃 35-44 |
Software developers, applications and systems software | 39.6歳 | 〃 25-34 |
日本
職種 | 平均年齢 | 備考 |
システムエンジニア | 36.9歳 | ボリュームゾーンは、30-39歳 |
プログラマー | 32.1歳 | 〃 25-34歳 |
中央値と平均年齢は比較できないものであるが、ボリュームゾーンから見ても
日本のプログラマやSEの年齢が比較してかなり若い=寿命が短いことがわかる。
プログラマのボリュームゾーンに至っては10年違うのだ。米国と比較して
プログラマの従事期間は5,6年少ないのではないか。
プログラマとしての従事期間が短くせざる負えない数値がもうひとつある。
日米の情報処理・通信に携わる人材の年収を比較してみた。(『人材白書2017』より)
日本
年収 | |
全就業者 | 4,892,300円 |
システムエンジニア | 5,923,300円 |
プログラマ | 4,083,500円 |
米国
年収 | |
全就業者 | 48,320ドル |
アプリケーションソフトウェア開発者 | 102,160ドル |
プログラマ | 84,360ドル |
米国の給与の高さにも驚くが、日本のプログラマの平均給与は、全就業者平均よりも低い状況にある。
SEとの給与差は、1.5倍だ。プログラマは否応なしに皆システムエンジニアを目指すことになる。
さらに、プロジェクトマネージャへ。
会社としても、プログラマをどんどん卒業させていかないと”売上拡大”は難しい。
会社もエンジニア自身もプログラマ→システムエンジニア→プロジェクトマネージャといった
キャリアアップルートを目指すことになる。しかも優秀な人ほど早く”ソフトウエア開発者”から
卒業していくことになる。
今PM人材募集の年齢を見ると30代、40代。プログラマ、エンジニアとして”手や頭を動かすのは”
現実、10年~15年程度となる。大手IT企業だともっと短いのではないか。
例えばプログラマとしての寿命は5,6年ぐらいではないのか。
こうした一本調子しかないキャリアアップが、ソフト開発技術者不足に拍車をかける。
IPAはキャリアパスの例としてアプリケーションエンジニアとして深めていくか、
異なる職種(PM)に行くか縦・横型のキャリアパスを示している。(図参照)
しかしながら、多くの企業は形式的にはともかく、”実際上は”直線的なキャリアパスを
選択している。(せざるを得ないのだ)
そのⅠにおいて、日本と米国のIT人材の年齢構成の比較をもとに、日本のIT人材の
年齢構成が”45歳定年モデル”を中心に成り立っていること、米国と比較しても、
若い層に偏っていることを示した。
キャリアパスについても、まさに”45歳モデル”を中心になりたっているのだ。
IT人材不足を解消していくひとつの方法は、従事人口を増やしていくことである。
つまり、それぞれの職種の寿命を延ばしてあげることで、活用できる人口は増えてくる。
45歳モデルを55歳(その年齢まで現場で使う)へと10歳延ばせば、2割程度活用できる労働力
を増やせることになる。今や45~54歳ゾーンがボリュームゾーンとなっているので影響力は
大きいのだ。
それぞれの職種の寿命を延ばして人材を活用していくためには、”今までの”仕事のやり方や
キャリアステップを変えていく必要があるだろう。
新しい技術への対応していくためにも、職種寿命を延ばしながら付加価値を高めていく
ことが求められていると感じる。
今までの”体力”技でのプロジェクト運営を、各職種の付加価値を高めながらどうコーディネート
していくのか。新しい技術と過去の”経験知”を活かしたパラダイム変換が必要なのではないか。
参考文献
・Employed persons by detailed occupation and age
https://www.bls.gov/cps/cpsaat11b.htm 合衆国労働省労働統計局
・総務省統計データ 2016年度
・『人材白書2017』 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)
・『ITスキル標準 V3』 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)
IT業界では、人材不足が顕著である。そしてこの傾向は拡大している。
経済産業省のモデルでは、IT 投資の伸び率を最も手堅い年率1.0%と仮定した場合でも、2030 年には
41 万人のIT 人材が不足すると予測され、41 万人の不足は、現在のIT 人材の4 割を超える規模となる。
その対策として、シニアIT 人材や女性、外国籍人材等の多様なIT 人材の活用によるIT 人材の量的確保
に加え、技術イノベーションによる革新的な生産性の向上、人材流動性の確保等による解決策を説いている。
ところが、人材不足という状況において、こうした対策にある取り組みはまだまだだ。
ちなみに私の会社のミッションは、シニアのエンジニアの”経験知”を使いながら、システム開発の効率化や品質向上、活用推進をしていくことだ。シニアのエンジニアが自分のスキルを使いながら、長く働いていけるようにしたい。
最近営業で、様々のIT企業様に訪問すると、だいたい同じ会話になる。
「うちも案件が多くて、人材不足なんだけど、せいぜい行けて45歳ぐらいまでなんだよね」
「それって、プロジェクトのすべての職種でですか?」
「マネージャ、リーダから開発者まですべて」
最初はあまり気にならなかったが、ほぼすべての企業様で言われる。
こうしたIT企業様送られて来る求人紹介も40代までの年齢制限付きだ。
年齢制限が付く理由は、元請けのプロジェクトリーダが40代で、それより上のメンバはつけないでと
依頼されるのが理由らしい。
求人を選択する場合の優先度合いは、スキル、経験その次に年齢だが、スキル・経験があれば
年齢ハードル超えられるかというとそうもいかない。
必須条件のひとつだ。
もちろんこうした年齢制限は”公”には認められていない。
請負はもとより、派遣であっても、年齢を条件に入れたり(60歳以上の年齢制限はOK)、事前面談
したりは”公には”いけないことになっている。
こうした”非公式”な年齢制限は、もちろんエンジニアに限った話ではない。
広告業界でも、50歳超えたリーダは、広告会社から商売を取ってこれないそうだ。
やはり顧客リーダと同世代でないと商売取れないので、裏方に回らざるを得ないという話を聞いた。
自分自身が発注者だったときには、特に年齢制限をつけた記憶もないが、すべての企業様で、
横並びで年齢制限を付けているのを見ると、これも下請けならではの、いわゆる”忖度”なのかと
思ってしまう。
人材不足で、案件がこなせないという状況の中で、新たな活用が進まない状況で、少子高齢化が確実に
今後進んでいく中でも、社会として年齢不寛容社会が広がっているような感じがしてしまうのである。
もし45歳までが上限だとしたら全体従事者の中でどのくらいの割合の人でこなしていかないといけないのか。
厚生労働省が平成27年度国勢調査の情報通信事業者の従事者数から推定して算出してみる。
すると、~44歳までの従事者人口は、~64歳までの従事人口の62%。全体人口の6割しか前線に立てない。
なお、同じ数値を平成22年度調査を見ると人口の70%であった。5年で8%縮小している。
平成33年(2020年)になると、”使える”エンジニアの数は半分切ってしまう。
ここにIT人材白書 2017の日本と米国の情報処理・通信に携わる人材の年齢構成を算出している数値がある。
(日本:2010年、米国:2015年と比較年は違うが)
全就業人口割合 | 日本 | 米国 |
20~24歳 | 6.4% | 9.4% |
25~34歳 | 19.0% | 22.0% |
35~44歳 | 23.0% | 21.0% |
45~54歳 | 20.4% | 21.9% |
55~64歳 | 19.9% | 16.8% |
ほぼ全就業人口の年齢比はあまり変わらないが、情報通信産業就業人口では、
情報通信産業就業人口割合 | 日本 | 米国 |
20~24歳 | 6.4% | 5.5% |
25~34歳 | 35.5% | 26.4% |
35~44歳 | 34.5% | 28.8% |
45~54歳 | 18.3% | 23.1% |
55~64歳 | 4.8% | 13.3% |
米国と比較しても、45歳~の落ちこみ度が大きく、年齢構成に大きな偏りがあるのだ。
今後はAI、IOT、ビッグデータと新たな技術に取り組んでゆかないといけない。
こうした新たな技術こそ、若い人に取り組ませるべきではないだろうか。
すべてのプロジェクトが45歳程度を上限に設定して構成していたとすれば、無駄に非効率ではないか。
やはり、プロジェクトに求められている能力や、技能や”人間性(コミュニケーション能力)”で選択すべきで、
年齢で制限すべきではないと思う。少なくとも入口排除は止めるべきでは。
(おそらく、この”人間性、コミュニケーション力”というところで年齢制限がついているのではないかと思うが、そこは今後展開していきたい。)
そして、もうひとつ年齢制限と相まってIT業界での人材不足を起こしている原因があると考えている。
それを次回にお話ししたい。
参考資料
経済産業省 2016年 IT ベンチャー等によるイノベーション促進のための人材育成・確保モデル事業
厚生労働省 平成27年度国勢調査
独立行政法人 情報処理推進機構 IT人材白書2017