IT業界の人材不足を起こすもうひとつの要因は、
プログラマ→システムエンジニア、そしてプロジェクトマネージャ
といった直線的なキャリアパスの存在だ。
人材不足をもうすこし職種別に細かくみていこう。
『IT人材白書2017』から、職種別の情報処理・通信に携わる人材数から職種割合を
見てみる。(人材白書上は、IT企業、IT企業以外と分けて記載ですが、合算して記載。)
日本
職種 | 人数 |
システムコンサルタント・設計者 | 552,000人 |
ソフトウエア開発者 | 304,100人 |
米国の状況と比較してみると
米国
職種 | 人数 |
システムコンサルタント・設計者 | 1,070,000人 |
ソフトウエア開発者 | 1,544,900人 |
なんと日本では、ソフトウエア開発を専とする開発者の方が設計者・コンサルより
少ないとは改めて驚いた。
(ちなみにシステムコンサルタント・設計者に集計されている職種は、
システムアナリスト,情報ストラテジスト,システムコンサルタント,
ビジネスストラテジスト,ISアナリスト,システムアーキテクト,
情報処理アーキテクト,ISアーキテクト,情報処理プロジェクトマネージャ。
それ以外がシフトウエア開発者だ。)
もちろん、分類の仕方や範囲によって数字は変わるものであるが、
”ソフトウエア開発を専として従事している”と言える人が少ない
ことは確かな事実なのかも知れない。
現実当社に毎日回ってくる人材募集の内容を見ても、
ほとんどがプログラムスキル保有者だ。
なぜ、ソフトウエア開発者が少ないのか。そのひとつの理由は、ソフトウエア開発者として
従事していくる期間が短いからだ。その期間はスキル的な問題で短くなっているわけでは
なく、構造的にソフトウエア開発を専としてやれる期間を短くせざるをえない状況に
あると言える。
その原因が職種に伴う単金差とそれに”紐づく”直線的なキャリアパスの存在だ。
各職種の平均年齢を米国と比較してみる。
職種別平均年齢
米国
職種 | 平均年齢(中央値) | 備考 |
Computer and information systems managers | 45.5歳 | ボリュームゾーンは、45-54歳 |
Computer systems analysts | 42.4歳 | 〃 25-34 |
Computer programmers | 42.6歳 | 〃 35-44 |
Software developers, applications and systems software | 39.6歳 | 〃 25-34 |
日本
職種 | 平均年齢 | 備考 |
システムエンジニア | 36.9歳 | ボリュームゾーンは、30-39歳 |
プログラマー | 32.1歳 | 〃 25-34歳 |
中央値と平均年齢は比較できないものであるが、ボリュームゾーンから見ても
日本のプログラマやSEの年齢が比較してかなり若い=寿命が短いことがわかる。
プログラマのボリュームゾーンに至っては10年違うのだ。米国と比較して
プログラマの従事期間は5,6年少ないのではないか。
プログラマとしての従事期間が短くせざる負えない数値がもうひとつある。
日米の情報処理・通信に携わる人材の年収を比較してみた。(『人材白書2017』より)
日本
年収 | |
全就業者 | 4,892,300円 |
システムエンジニア | 5,923,300円 |
プログラマ | 4,083,500円 |
米国
年収 | |
全就業者 | 48,320ドル |
アプリケーションソフトウェア開発者 | 102,160ドル |
プログラマ | 84,360ドル |
米国の給与の高さにも驚くが、日本のプログラマの平均給与は、全就業者平均よりも低い状況にある。
SEとの給与差は、1.5倍だ。プログラマは否応なしに皆システムエンジニアを目指すことになる。
さらに、プロジェクトマネージャへ。
会社としても、プログラマをどんどん卒業させていかないと”売上拡大”は難しい。
会社もエンジニア自身もプログラマ→システムエンジニア→プロジェクトマネージャといった
キャリアアップルートを目指すことになる。しかも優秀な人ほど早く”ソフトウエア開発者”から
卒業していくことになる。
今PM人材募集の年齢を見ると30代、40代。プログラマ、エンジニアとして”手や頭を動かすのは”
現実、10年~15年程度となる。大手IT企業だともっと短いのではないか。
例えばプログラマとしての寿命は5,6年ぐらいではないのか。
こうした一本調子しかないキャリアアップが、ソフト開発技術者不足に拍車をかける。
IPAはキャリアパスの例としてアプリケーションエンジニアとして深めていくか、
異なる職種(PM)に行くか縦・横型のキャリアパスを示している。(図参照)
しかしながら、多くの企業は形式的にはともかく、”実際上は”直線的なキャリアパスを
選択している。(せざるを得ないのだ)
そのⅠにおいて、日本と米国のIT人材の年齢構成の比較をもとに、日本のIT人材の
年齢構成が”45歳定年モデル”を中心に成り立っていること、米国と比較しても、
若い層に偏っていることを示した。
キャリアパスについても、まさに”45歳モデル”を中心になりたっているのだ。
IT人材不足を解消していくひとつの方法は、従事人口を増やしていくことである。
つまり、それぞれの職種の寿命を延ばしてあげることで、活用できる人口は増えてくる。
45歳モデルを55歳(その年齢まで現場で使う)へと10歳延ばせば、2割程度活用できる労働力
を増やせることになる。今や45~54歳ゾーンがボリュームゾーンとなっているので影響力は
大きいのだ。
それぞれの職種の寿命を延ばして人材を活用していくためには、”今までの”仕事のやり方や
キャリアステップを変えていく必要があるだろう。
新しい技術への対応していくためにも、職種寿命を延ばしながら付加価値を高めていく
ことが求められていると感じる。
今までの”体力”技でのプロジェクト運営を、各職種の付加価値を高めながらどうコーディネート
していくのか。新しい技術と過去の”経験知”を活かしたパラダイム変換が必要なのではないか。
参考文献
・Employed persons by detailed occupation and age
https://www.bls.gov/cps/cpsaat11b.htm 合衆国労働省労働統計局
・総務省統計データ 2016年度
・『人材白書2017』 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)
・『ITスキル標準 V3』 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)